税理士事務所における採用活動は、単に「人を集める」だけでは意味がありません。
採用の成功とは、「採用した人材が事務所に定着し、長く活躍し続けること」です。
慢性的な人手不足や若手税理士の早期離職が問題となる中、募集の段階から「継続」を見据えた設計が不可欠です。
この記事では、税理士事務所の専門コンサルタントの視点から、社員の定着を実現するための採用戦略を具体的に解説します。
採用戦略の重要性を既に理解している方は、下記で採用戦略とオススメの媒体を解説していますのでご参考にください。
目次
税理士事務所の採用で「誰でもいい」は危険。採用の目的を明確化することが重要

最初に確認すべきは、「なぜこのポジションで採用が必要なのか」という目的の明確化です。税理士業界では、繁忙期対応要員か、将来の幹部候補かによって、求める人物像は大きく異なります。
目的が曖昧なまま採用を始めると、ミスマッチによる早期離職を招きやすくなります。
採用の成功=定着+活躍です。
仮にミスマッチによる人材が定着してしまったとして、活躍することなくなんとなく居座ってしまっては業績悪化につながります。
採用の目的は人材補充ですが、しっかりと活躍してもらい、定着してもらうことを目的にすべきでしょう。
どこの部署でどのように活躍してもらうか、どうやって定着してもらうか、研修工程~実務内容まで事前に決めておきましょう。
税理士事務所の採用活動で核となるのは「募集要項の設計」

継続につながる募集を行うためには、募集要項の設計段階で、職場のリアルを正確に伝えることが大切です。
必須項目:
・実際の業務内容(たとえば記帳代行のみか、税務調査対応まで含むのか)
入社後に思っていたことと違う実務が発生すると、早期退職の原因になります。
税理士事務所では記帳代行や税務調査の業務がありますが、業務内容が大きく異なります。求職者の想定と大きく異なることが無いように、しっかりと募集要項に明記しておきましょう。
・繁忙期の勤務状況(残業の実態・休日対応の有無)
残業や休日など、特にプライベートに影響する部分でのギャップは早期退職の原因になります。
・使用している会計ソフト
また、ソフトウェアや作業環境の違いによって、想定以上の変化(負担)を強いるような場合は、早期退職の原因になります。
・どの程度の自走力が必要か(研修・指導体制の有無)
自走力はキャリアやスキルが異なるため、個人によって様々です。想定よりも短い・簡易な研修期間だと思ったように成長できずに結果的に退職してしまいます。
これらを包み隠さず伝えることで「思っていたのと違う」といったギャップによる離職を防ぎます。
また、募集要項は求職者が最初に見る、会社の情報です。
ここを窓口として、応募につながるかどうかが決定されるといっても過言ではありません。
窓口の印象が良くないと、問い合わせにもつながりません。
価値観と文化の確認でミスマッチ採用と早期離職を防ぐ!

応募者のスキルや経験も重要ですが、定着にもっとも影響するのは「価値観の一致」です。
確認すべき観点:
・安定志向か、成長志向か
・チームで働きたいのか、個人で成果を出したいのか
・資格取得を重視するのか、実務重視なのか
これらの要素が事務所の文化と合っていなければ、どれほど優秀な人材であっても長くは続きません。これをミスマッチ採用と言い、キャリアやスキル、履歴書では判断できない部分でよく起こる問題です。
必ず面接や適性検査を通じて、価値観マッチングを重視した選考を行うことが、定着率を高める鍵です。
オンボーディング(入社後支援)の設計

採用は、入社がゴールではなく、スタートです。
入社後から社員が安心して業務に取り組め、事務所の一員として活躍できるような体制が必要です。
次のようなオンボーディング体制を整えましょう。
・業務マニュアルの整備
・メンター制度の導入
・定期的な1on1面談
・キャリアパスの明示
どの様な求職者であっても、入社前後は不安を抱えているものです。
事務所での勤務が始まってから、不安や疑問を抱えたまま離職することも多くあります。
そのリスクを大幅に下げるのが、オンボーディング耐性です。入社後の離職防止措置として必須と言っても過言ではありません。
ACCSコンサルティングではオンボーディングサポートのサービスもご提供させていただいております。
お気軽にお問い合わせくださいませ。
https://znews-online.com/accs/user/movie/watch.php?c=MzYw&v=4366&mk=2
定着データをもとにPDCAを回す

最後に、採用の成功可否は定量的に測定・改善していく必要があります。
以下のような指標を用いることで、採用施策の有効性を見える化できます。
・3ヶ月・6ヶ月・1年後の在籍率
・面接通過率と入社後評価の相関
・離職者の退職理由分析
データに基づいて、募集手法、選考基準、初期研修などを柔軟に見直していくことが、長期的な人材定着に直結します。
採用目標を達成後のキャリア選択

事務所によって目標は違えど、入社後半年~1年で活躍しはじめてもらいます。
その後3年~5年は定着してもらえれば成功と言えるでしょう。
その後はキャリアの選択をしたり、役職に就いたり、将来を見据えた選択をする段階になってきます。
そうなれば採用ではなく部署や会社のキャリア形成の在り方について話し合うタイミングです。
税理士事務所 採用ページ原稿
・募集期間
・募集人数
・キャッチコピー
・募集要項
・会社名
・問い合わせ先
・ホームページ
これらを確実に書き込むようにしましょう。
あまり情報を詰め込み過ぎても、見づらくなってしまうので注意が必要です。
下記はA4サイズ想定の採用ペラです。

税理士事務所 求人票原稿
・募集職種
・税理士補助スタッフ
・業務内容
・税務申告業務
・経営コンサルティング業務
・顧客対応業務
・応募資格
・税理士試験科目合格者歓迎
・未経験者も応募可
・コミュニケーション能力の高い方
・勤務地
・東京都内(最寄駅:○○駅)
・勤務時間
・フレックスタイム制度あり
・コアタイム:10:00~15:00
・給与
・月給:○○万円~(経験・能力を考慮)
・福利厚生
・社会保険完備
・資格取得支援制度
・研修制度
・在宅勤務制度
以下はA4サイズ想定の求人原稿ペラです。

税理士事務所 面接マニュアル
事前に把握しておくべき項目
・面接の目的を伝える
・応募者のスキルや経験を確認する
・事務所の文化や価値観との適合性を評価する
・応募者のキャリアビジョンと事務所の提供できる成長機会との一致を確認する
面接の進行
・面接官の自己紹介(1分)
・求職者の自己紹介(5分)
・応募者のスキル・経験確認(10分)
・志望動機の確認(3分)
・面接官からの質問(5分)
税理士事務所での業務経験
税理士試験の進捗状況
チームでの協働経験
過去の実績
今後のキャリアなど
・事務所の理念や文化、方針などの紹介(3分)
・業務内容、職場環境の説明(5分)
・現場見学(5分)
・応募者からの質問(5分)
・終了
まとめ:成功する採用とは、「事務所に合う人が、長く働ける仕組み」を作ること
税理士事務所の採用は、採った瞬間ではなく、「継続して活躍しているかどうか」で成功が測られます。
そのためには、募集の段階からゴールを「定着」に置き、事務所と応募者の相互理解を深める設計が求められます。
時代は「人材確保競争」から、「人材定着競争」へ。
継続を見据えた採用戦略こそ、これからの税理士事務所経営に不可欠な要素です。